今回のお話は、樹から材木に育てるというお話
ようやく国産木材の良さが見直されてきましたね。つくり手や売り手のお仕着せの住まいづくりに疑問を持つ方が増え、綺麗な見た目だけではなく素材本来の美しさや強さを持つもので家づくりをしたいと考える方が多くなりました。受け継がれてきた昔ながらの家づくりが、実は、環境に負荷をかけない現代の私たちが実践しなければならないモノづくりのヒントになっているのではないでしょうか。
私たちが住まいづくりに使う材木量は、一般的な木造住宅と比べてかなり多く、構造材から下地材、内装仕上げ材から建具材まで実にたくさんの日本の木を使いますが、使用する材木のほとんどを埼玉県(西川材)の木材産地にて仕入れています。西川材に精通した製材所内に自然乾燥させるためのピノキオ工房の材木置場を設け、毎年の伐期になれば用途別の必要量を、消費した分だけ挽いてもらうかたちで十数年続いています。樹から材木になるまでの流れとしては、樹が成長を止めている時期に伐った丸太を用途に応じて製材しますが、例えば桁材に必要な寸法が4寸角(約120ミリ角)の4メートル材なら4寸5分角(約135ミリ角)に製材します。3年も経過すると、乾燥して捻れや反りがでますのでクセ取りの修正挽きを行い、4寸2分角(約126ミリ角)に挽きなおして当工房へと運ばれます。最終的な寸法に仕上るために、より精度の高い切削機械(自動プレーナー)で加工しようやく材木となるわけです。
はたからみれば「なぜそんな面倒なことまでして材木にこだわるのか」とか「機械乾燥のKD材を頼めばすぐに材木は手配できる」などと思われるでしょう。
機械乾燥材と自然乾燥材の違いは改めて述べる必要はありませんが、理由はふたつあります。ひとつは、柱の1本でも、いつどの季節にどこの山でだれが伐って、どこで製材して加工し材木になったものかを「知っていること」が大切ではないかということ。材木の形をしていれば何でも良いわけではないのですし、自信のないものでは説明も出来ません。。ふたつめは、樹から材木になるまで環境への負荷が少ないプロセスであるということ。樹を伐り山出しし、皮をむいて製材し自然乾燥させて使う。考えてみるとこの方法は、労力がトラックや機械に変わったものの何百年前からほとんど変わっていないといえるのではないでしょうか。おおきな工場や設備を投資して大量生産することで下がるコストはあるでしょうが、必要以上のものは環境へ与える負荷のほうが大きくなるかもしれません。
製材後3年もの月日が流れますと、屋根がけの材木置場でも材木は埃をかぶり黒々となり、芯持ち材の木口(木の断面)には放射状に割れも入ります。大きな梁などは割れた面が盛り上がり、製材したての表情はまったくありません。しかしひとたび修正挽きを入れ、いびつになった挽き落としを見るとこれだけクセが出ていたのかと一目瞭然となります。木目の表情と匂いは製材時よりも良くなっていることに驚かされるたびに、自然に逆らわない木の習性に応じた乾燥方法なのだなとつくづく感じます。
消費した分だけまた製材し寝かせておく。その繰り返しは管理された山と同じで、樹を伐ったら植えて次の世代に残すことと同じだと思います。準備した期間が一回りすれば3年寝かす感覚はなくなります。